『べらぼう』横浜流星の眼差しの変化が頼もしくも切ない 蔦重の差別に対する逆襲の炎

『べらぼう』蔦重の差別に対する逆襲の炎

 人生の大勝負に出るとき、大事なのは視点をグッと引き上げて後世に思いを馳せることなのかもしれない。瀬川が蔦重との恋を諦め鳥山検校(市原隼人)との身請けを引き受けたのも、ここから続く花魁たちが少しでもいい身請け先との縁ができるようにと願ってのことだった。そして、離縁したにも関わらず再び蔦重のもとから離れていったのも、蔦重の歩む道が吉原やこの国を大きく変えると信じたから。

 蔦重が見据えているのも、現在の自分の富や名声にとどまらない未来。それこそ、鱗形屋(片岡愛之助)の転落を前に、「みんながツキまくる世ってのは、ねぇもんすかね」と憂いていたように。誰かがつまづくことでようやく商機が得られる世の中ではなく、誰もが平等にチャンスをつかめる、そんな世の中の礎に自分がなれたら、とのことなのだろう。

 もちろん、これは大博打だ。公に「四民(士農工商の4つの身分)の外」と言われた「吉原もん」が、日本橋で勝負をかけるとは前代未聞。だが、勝ち目がないわけではない。それは「何がどうころんだって隣にいる」と言った歌麿(染谷将太)をはじめとした蔦重のもとに集まったクリエイターたち。今や日本一の絵師や戯作者、狂歌師が蔦重一味となった。「江戸一」から「日の本一」になるために必要なのは、あと日本橋ブランドだけなのだと見切っているのだ。

 そうした蔦重と並んで吉原では花魁の誰袖(福原遥)も、田沼意知(宮沢氷魚)との身請けの夢を叶えるべく大勝負に出ていた。これまで松前藩がオロシャとの抜け荷をしている証拠を手に入れるのが難しいのなら、これから抜け荷をさせるようという大胆な作戦だ。ターゲットは松前藩主・松前道廣(えなりかずき)の弟・廣年(ひょうろく)。自由になるお金がないとぼやいていたことを踏まえて、抜け荷をして金を手に入れてみてはとそそのかす。

 当然ながら「抜け荷はご法度だ」と怒りをあらわにする廣年。その勢いのまま誰袖に向かって「女郎ごときが」と罵る姿を見て、ここにも誰袖の差別に対する抵抗があるのではないかと感じた。面食いだと称して、蔦重や意知に身請けをせがんできた誰袖。しかし、その目的に向かって周囲を固め、果敢に動くしたたかさを見ると、彼女も「吉原の女郎」という差別を受けない時代に生まれていたとしたら、どれだけのことを成し遂げられる器の持ち主だったのかと想像する。

 蔦重や誰袖が生まれや育ちの呪縛を突破するべく奮闘する様子を見ながら、「出自などにこだわるな」と意次が家系図を投げ捨てたシーンを思い出した。この家系図を渡した佐野政言(矢本悠馬)は代々徳川家に仕えてきた佐野家。しかし、今ではその由緒正しいはずの佐野家よりも低い身分だったはずの田沼家が繁栄している。この事実に、内心穏やかではないはずだ。そして、蔦重に出資を持ちかけるほど羽振りのいい土山も田沼一派。その恩恵に預かろうと近づいた政言だったが、プライドからなのかあるいは持ち前の性格からか、いまいち仲を詰められずにいたところも今後の展開を予感させる場面だった。

 後世に誇れる未来を夢見て過去の流れに抗う者と、過去に築かれたものを守ることで未来を築こうとする者。相容れないと思われる二者だが、こと日本橋・丸屋のあとに店を出そうという蔦重と、「耕書堂だけには」と拒む丸屋の娘・てい(橋本愛)に限っては、後に夫婦になることが明かされているから驚きだ。それも、誰かの失敗の上にツキが回るのではない世を目指す蔦重だからこそできた、新たな未来なのかもしれない。果たして、そこにはどんな物語があったのか。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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