物語がドリフト&急カーブ! 「そっちに!?」タイプの新たな快作『フェイクアウト!』に驚き

『フェイクアウト!』の新鮮な驚き

 そっちに!? 映画『フェイクアウト!』(2025年)は、一夜の出来事を描くクライムサスペンスだ。しかし、これが良い意味で期待を裏切ってくれる快作だった。

 いろいろあって2000万円の借金を背負っている青年・高島誠人(三浦獠太)は、怖い人たちに脅されてラクに稼げる犯罪バイトに手を出す。それは大企業が開発した株価予想AIを盗み出すという、危険すぎるヤマだった。工夫と知恵でデータを盗み出した誠人は、手にしたデータを人質に、逆に怖い人たちを脅して、2000万円を寄こせと脅すのだが……。

 まず断っておくと、若干の「ズルいよ~!」感は否めない。最たるものは“羅生門スタイル”という点だ。黒澤明監督の傑作『羅生門』(1950年)は、一つの事件を4人の視点から語る物語である。それぞれがウソをつき、同じ事件のはずが違う話をするので、何が本当なのか分からなくなってしまう(最終的に一応の事実は提示されるが)。こうした「同じ話を、視点を変えて語る」映画を“羅生門スタイル”と言うのだ。本作もそんな羅生門スタイルを自称している。たしかに同じ事件を複数の視点から見ているので、羅生門っちゃ羅生門だが……実際の手触りは、近年の韓国映画に近い。つまり映画が急速にシフトチェンジする「そっちに!?」タイプの映画である。

 ここ数年、韓国では「そっちに!?」タイプの映画が一定間隔で作られている。ほのぼの青春コメディかと思ったら、中盤からヴァイオレンス超能力アクション映画になる『The Witch/魔女』(2018年)や、犯罪アクションかと思ったら、途中からクリーチャー大暴れになる『オオカミ狩り』(2023年)など、思い切りの良い映画が盛りだくさんだ。本作は“羅生門スタイル”というより、こういった「そっちに!?」映画の系譜に連なる作品だろう。

 こういった映画を作るには、とても勇気が必要だ。失敗すれば白ける人も出てくるだろう。しかし、豪快なハンドリングで、全力で物語がドリフト&急カーブに成功した瞬間、言葉にできないほどの興奮が発生する。本作はそんな物語のドリフト&急カーブに成功している。もちろん話が急カーブすること自体には、賛否が分かれるだろうけれど、その感覚が大好きな人間的には、最後まで満面の笑みでスクリーンを見つめることになるはずだ。そして筆者は、大いに楽しんだタイプである。先に書いた「ズルいよ~!」感も覚えつつ、でも面白いからOKです!

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