絶望展開が続く『あんぱん』は今までの朝ドラと何が違う? のぶが直面する“戦前”の価値観

絶望展開が続く『あんぱん』の特異性

 NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『あんぱん』が緊迫感のある展開を見せており、毎回ハラハラしている。

 本作は『アンパンマン』の作者として知られるやなせたかしとその妻・小松暢をモデルとした柳井嵩(北村匠海)とヒロインの朝田のぶ(今田美桜)の物語。
 
 第1話冒頭は「正義は逆転する。信じられないことだけど、正義は簡単にひっくり返ってしまうことがある、じゃあ、決してひっくり返らない正義ってなんだろう」という嵩のモノローグから始まり、『アンパンマン』の絵を描いている嵩とのぶの姿が描かれる。

 そして二人が出会った幼少期へと物語は遡っていく。冒頭で語られた「簡単にひっくり返ってしまう正義」が戦前と戦後の日本の価値観であることは、誰の目にも明らかだった。この冒頭のシーンにたどり着くまでには「ひっくり返る正義」として、戦時下の日本の価値観が描かれると予想していたのだが、その描き方が実に見事で、朝ドラにおける戦時下の表現として回を重ねるごとに、自然な流れで緊張感と凄みのある描写に変わっていくため、目が離せない。

 成長したのぶは女子師範学校に入学し、やがて尋常小学校の教師となる。その過程で「祖国のために全身全霊をつくせ」という軍国思想を内面化していく。

 のぶは実家の朝田石材店の石工として働いていた原豪(細田佳央太)の出征をきっかけに、戦地の兵士たちのための慰問袋を学校で作ろうと考える。そのために街頭で献金を呼びかけ、その姿が新聞に掲載されて「愛国の鑑」と呼ばれるようになる。

 一方、壮行会のときに豪に告白された朝田家の次女・蘭子(河合優実)は、豪と想いが通じ合うのだが、その後、豪が戦死したという知らせが届く。

 誰もが豪は立派だったと言い、のぶも国のために戦死した豪を誇りに思うべきだと言うが、「子どもたちにもお国のために死ぬことは誇らしいことだと教えるのか?」と蘭子はのぶに問いかる。そして「そうながよ(そうだ)」と答えるのぶに対し「そんなの嘘っぱちや!」と怒りをあらわにする。

 豪と蘭子のやりとりは、河合優実の芝居が高く評価され、名シーンとして絶賛された。それだけに豪の戦死の知らせは視聴者に衝撃を与えたのだが、戦時下の日本に深い疑念を抱くのが蘭子で、主人公ののぶではないことに、何より驚かされる。

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