『バケモノの子』『聲の形』『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』を歩くーー聖地巡礼のお供に『日本の映画の舞台&ロケ地100』

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』をみた人なら誰でも、あの夢のような旅館に雨の中訪れてみたくなるだろう。
おもしろいエンタメ作品に出会うと、しばらく興奮が冷めない。余韻を味わうため、登場人物が食べていたものを自分も試したり、楽器を始めたり、コスプレをしてみたり。
しかし、物語を追体験するにはその世界に飛び込んでしまうのが手っ取り早い。でも、どうやって? そんな人には、谷國大輔『日本の映画の舞台&ロケ地100:物語と旅する建築・町並み・絶景』(学芸出版社)がもう一度その世界を歩くガイドブックになるかも。
映画作品のロケ地を100か所に厳選し、ジャンルごとに紹介。『バケモノの子』『聲の形』『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』といった近年の作品も多い。掲載された風景はすべて、あのシーン、このセリフと結びつく。ページをめくるだけで、感情が鮮やかに呼び起こされる。
とくにアニメやマンガのファンにとって、聖地巡礼という言葉はもはや一般名詞になった。『君の名は。』の糸守湖のモデルとなった長野県の諏訪湖や、『らき☆すた』で知られる埼玉・鷲宮神社、さらには『スラムダンク』の江ノ電・鎌倉高校前駅踏切など、その場所に立つこと自体がファンにとって一種の儀式となっている。映画『涼宮ハルヒの消失』の聖地のひとつ、サイゼリヤ北夙川(きたしゅくがわ)店が閉店したときは、ファンから惜しむ声が上がった。

コンテンツ・ツーリズムを扱った本はほかにも多い。岡本亮輔『聖地巡礼ーー世界遺産からアニメの舞台まで』(中公新書)は、宗教的巡礼から現代のアニメ聖地までを包括的に考察し、人々が場所に特別な意味を見出す過程とその文化的背景を読み解く。
旅行情報誌『るるぶ』は、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『ガールズ&パンツァー』『ゆるキャン△』といったアニメとコラボレートして、聖地巡礼ガイドを出版している。いまや「巡礼」までがひとつのコンテンツとなりつつある。
SNS時代において、推し活の一環としての聖地巡礼はますます盛んだ。InstagramやX(旧Twitter)には、ロケ地での写真に「#聖地巡礼」のタグが添えられることも多い。ロケ地観光による経済効果は大きいが、ゴミの放置、文化遺産への落書きや破壊行為、車道で立ち止まっての写真撮影といった迷惑行為も目立つ。これではいけない。巡礼者がまずは心がけるべきこと。ファンである前に、よき旅人であれ。