ゲームの世界観を“メタバース的体験”で再現…次元を超えた「2025スターレイルLIVE上映会」レポート

「2025スターレイルLIVE上映会」レポート

 5月17日、『崩壊:スターレイル』などを運営するHoYoverseは全国各地の映画館にて「2025スターレイルLIVE上映会」を開催した。本公演は、同月3日に中国・上海で行われたライブコンサートの模様を、大スクリーンとリッチな音響で再上映したものである。

 映画館への入場者には特典として記念ポスターと記念チケットが配布され、プレミアム上映会場である池袋HUMAXシネマズ(東京)、なんばパークスシネマ(大阪)では、ペンライトやアクリルスタンドなどのイベントグッズが付いていた。

 筆者は池袋HUMAXシネマズを訪れ、受け取った特典の中にはマダム・ヘルタのアクリルスタンドが封入されていた。ゲーム本編のVer3.0で「オンパロス編」が開幕してから、多くのプレイヤーのメイン砲台として目下大活躍中の“知恵の指令”。これからはパーティーだけでなく仕事用のデスクの上にも鎮座してくれるようだ。

 この公演の前に、YouTubeにアップされている上海公演をフル尺で4回ほど鑑賞してきた。そのうえで強調しておきたいのが、今回のイベントは自室で観るのとはまるで別の体験だったということだ。本稿では、「2025スターレイルLIVE」が映画館でいかにして拡張されていたかを中心に語りたい。

 明らかに上映用に音源がマスタリングされており、特に客席に向けられたマイクの音はより際立っていた。まるで自分たちも上海東方体育中心(収容人数1万8000人)にいるかのような臨場感を覚えた。

 思えば、『崩壊:スターレイル』のパブリッシングを担うCOGNOSPHEREがHoYoverseを新ブランドとして発表した際、メタバースや仮想空間は重要なトピックのひとつだった。

 その意味では、今回の上映会もメタバース的体験と言えるのではないだろうか。スターレイルに限らず、同社のゲーム作品の中では何度も仮想現実由来のアイデアが何度も登場している。ピノコニー編は舞台そのものがバーチャル空間だったことを考えると、今回のイベント設計も偶然ではないように感じられる。

 コンサートはパムの会場アナウンスから始まり、本作のオープニングBGM「スターレイル」へ。そしてマダム・ヘルタのキャラクターBGM「宇宙天才伝説」に繋がったが、ここで彼女は楽団のコンダクターの座を壇上の男声指揮者から奪う形で引き継ぐことになる。

 ゲームのキャラクターが生身の人間たちを率いる姿は2022年に行われた崩壊3rdのオンラインコンサート「純真なる夢歌」でも実現しており、そのときはエリシアがタクトを握った。2次元が実存を支配するというアイデアも、VR的である。

 崩壊シリーズの音楽はエレクトロニック・ミュージックからヒントを得たものが多いが、それがオーケストラを介すことで変化する魅力もコンサートの醍醐味のひとつだろう。カフカのキャラクターBGM「ドラマティック・アイロニー」ではヴィヴァルディの「四季」から“冬”と“夏”がアレンジとして、いやもはやリミックスとかブートレグと言うべき解像度で使われている。

 シネマティックなドラムンベースがもう一度クラシックに回帰することで、オリジナルが持っていた味わいがさらに広がってゆく。なお、打ち込みのサウンドをどのように再現するのかは、このあともたびたび披露される。

 今回はワールドごとにパート分けされていたが、ピノコニーセクションで演奏された「君の色」(黄泉のキャラクターBGM)も好例だ。原曲ではダブステップ(ブロステップ)を基調にしながら和楽器が印象的に使われているが、本公演ではギターの轟音もかき鳴らされ、より激しさが増していた。

 昨年5月の前回公演では披露されなかった楽曲だったこともあり、個人的に大変楽しみにしていたが、期待を遥かに超えるクオリティだった。映像とレーザー、ライティングの色合いも赤とモノクロでまとめられており、極めてシックな世界観が展開された。ステージ中央には唐傘を振りかざす女性ダンサーが舞っており、その両脇では深編笠をかぶった僧がそれぞれ尺八と三線を吹きこなして、弾き倒す。

 作中で描かれたティエルナンと黄泉の会話シーンは静謐なものだったが、その静寂と轟音を両立させたような、見事な舞台づくりだったと感じる。

 そして主観繋がりでもうひとつ語りたいのが、Reolが参加した「不乱不破」だ。先に述べたように、ダンスミュージックにヒントを求めてきた『崩壊:スターレイル』の作家陣にとって、彼女はまさにミューズである。音楽ジャンルに対して限定的なアプローチをとる歌い手ではないが、キャリアの初期からプロデューサーのGigaと組んでエレクトロやベースミュージックを下敷きにした楽曲を歌いこなしていた。

 そして「不乱不破」もまた2000年代のエレクトロを想起させるようなテクスチャーで、作曲者としてクレジットされている崔瀚普(TSAR)は作為的に同楽曲をプロデュースしたのではないだろうか。ちなみに「君の色」や花火のキャラクターBGM「独り芝居」もTSARの作曲だ。

 「君の色」同様、この楽曲の演奏時には打ち込みのサウンドに負けず劣らずギターがかき鳴らされた。加えて、楽曲の中盤には本作屈指の“奇歌”「バナーネの歌」がアレンジされて差し込まれ、厄介なミームウイルスがもたらす混沌が再現。なお、この楽曲もTSARによるもので、やはり彼もHOYO-MIXが誇る天才のひとりと言って差し支えないだろう。Reolの出番の直後、客席から野太い声で「最高!」と叫ぶのがマイクに拾われていたが、本当に素晴らしかった。

『崩壊:スターレイル』スターレイルLIVE2025:「不乱不破」

 さて、話をピノコニーセクションに戻そう。本公演のハイライトのひとつは、「翼の生えた希望」と見て間違いないはずだ。前回公演を経て、最も待ち望まれていたのはこの楽曲だったように感じられる。

 たびたび客席のマイク音量について言及しているが、もちろんステージ上で鳴らされるサウンドも大変クリアだった。それが顕著に分かったのが「翼の生えた希望」だ。「第8交響曲 『共に昇りし千の太陽』」から、Chevy(ロビン楽曲すべての歌唱を担当)登場に繋がる際、客席からは大歓声が上がる。その奥から聴こえる、Chevyの美声とアコースティックギターの音。YouTube動画では素通りしてしまった「キュ」っというフィンガーノイズが確かに聴こえて、心を大きく揺さぶられた。

『崩壊:スターレイル』スターレイルLIVE2025:「翼の生えた希望」

 前回公演に続いて、今回も「HoYoFair」から2曲披露された。YUKARI & JUANによる「剣と雪」と、歓喜と困惑で場内を沸かせた「Dr.レイシオの形而上学的入浴理論」。烏屋茶房による後者の楽曲を、超学生が文字通り高らかに歌い上げた。

 『崩壊:スターレイル』、ひいてはHoYo-Mixの作家たちがエレクトロニック・ミュージックを志向する理由のひとつに、“精神的な近さ”があると考える。クラブカルチャーやダンスミュージックにおいて、そもそも二次創作は日常会話のようなものだ。リミックスやブートレグが歴史を変えるような名曲を生み出した例は枚挙に暇がない。

 「Dr.レイシオの形而上学的入浴理論」もハードスタイルとトラップを掛け合わせたようなリズムであることから、両者は広義でほぼ同じ場所に存在しているような気がする。クリエイターたちの有機的な閃きや蟲動は、今後も多方面にポジティブな影響を与えるはずだ。それがこうして日の目を見るのは、とても素晴らしいことだと思う。

【超学生】Dr.レイシオの形而上学的入浴理論 from「スターレイルLIVE2025」

 日本でもスターレイルLIVEを開催していただけないかと常々夢想しているが、仙舟セクションにおける圧巻のパフォーマンスを見たあとでは「フルで再現はちょっとタフか…?」という心境になってしまった。

 というのも、セットやヒューマンリソースが潤沢で、“オーケストラコンサート”とは一線を画すものだったからだ。酔いどれの天撃将軍をモチーフにした「君、笑うこと莫れ」(飛霄のキャラクターBGM)や、停雲を模したと思われるダンサーの妖艶な舞いが印象的な「子不語」(帰忘の流離人)。もはや活劇というべきスケール感。

 特に「子不語」でセンターを務めたダンサーは見事に停雲役を演じ切り、カメラワークも完璧にそれに応えた。扇子で顔を覆いながら蠱惑的に微笑む姿を、ピンボケしながら画角を外してゆく。このシーンは本当に立ち上がって拍手を送りたかった。マダム・ヘルタが2次元から3次元を支配した存在なら、こちらは生身の人間が2次元を掌握した場面だったように感じる。

 そして仙舟セクションはみんなのアンセム「水龍吟」で幕を閉じる。オーディエンスの「仙舟飛翔、雲騎常勝」というコールも含め、HoYoverse(もといmiHoYo)のファンベースの強固さを目の当たりにした。

 で、この熱量とイベント開催にかかるコストをあわせて考えると、比較対象は音楽フェスなのだと思う。国内外から集結したシンガーやパフォーマーがどんどんステージに登場し、セットも演目が切り替わるたびに新調され、ARまで駆使されてゲームの世界観がこれでもかと再現される。

 日本で実現可能ならばもちろん三拝九拝でお願いしたいところだが、なかなかにタフだと思う。本公演をそのまま他国に持ち込むとなると、フジロックやサマーソニックを丸ごと輸出するのと同じ程度に大変なのではないだろうか。

 「君、笑うこと莫れ」のサウンド面にも触れておきたいのだが、この楽曲の演奏では中国の民族楽器「スオナ(嗩吶)」が使われた。原曲でも使用されている楽器だが、この音がとにかくカッコイイ。前回公演でも刃の「死兆、来たれり」でも鳴らされていたが、ベースミュージックとの相性の良さについて最初に気付いた人は何らかの賞をもらうべきだ。

 あっという間にオンパロスである。『崩壊:スターレイル』における最新シナリオは、実装からそれほど日が経っていないなかで広く支持を集めている。先ほど大声で仙舟を後押ししていたオーディエンスは、ここではクレムノスの民として覚醒。

 筆者もVer.3.2までプレイ済みで、キャラクターたちの現在どのような状態なのか把握している。それゆえにステージ上で行われているあれこれが何かを指し示しているようで大変ハラハラした。特にトリビーの「子供の言葉は純真無垢」。いや、オンパロスのパフォーマンスは全部怪しかった。

 トリビー&トリアン&トリノンのダンサー3人がステージ上を所せましと駆け回るのだが、ひとりだけ別の方向に行ったりすると、「あの……それは何かのメタファーですか?」と心がザワザワした。

 コンサート終盤は、本作の主要楽曲が次々に演奏された。「野火」や「旅の途中で」などはもはや、イントロが一音鳴っただけで歓声があがる。そのなかでもLoger Chenを迎えて披露された「星間旅行」は、最初から最後まで大合唱が続いていた。

 彼女はACGコミュニティにおいて「夜に駆ける」(YOASOBI)や「灰色と青」(米津玄師)などをカバーしており、2022年には初音ミクとも共演して「Mirai Light」をリリースした。J-POP側から見てこの抜擢は心が躍る。やはりポップカルチャーにおけるメンタリティは近いところにあるのだと感じた。

【Loger Chen】星间旅行|Interstellar Journey 【Honkai:Star Rail Concert 2025】StarRailLIVE2025【陈乐一】

 アンコールはアンソニー・リンチを迎えて「旅に出よう」。前回公演でラストを飾ったのは「スターレイル」だったが、本作のコンサートはオーディエンスを旅の始まりに戻したがる傾向があるようだ。

 5月21日にはVer.3.3も配信され、オンパロス編も大きな山場を迎えそうなところである。時に辛い道を行かなければならないときもあるが、そういった時に原点に立ち返る機会をもらえるのはありがたいことだ。

『崩壊:スターレイル』スターレイルLIVE2025:「旅に出よう」

 7月11日からは『Fate』とのコラボ企画もスタートする。ますます発展してゆく世界の始まりには、いつだって星穹列車が待っていてくれる。必要なら何度だって始まりに立ち返りましょう。そして願わくば、また来年も素晴らしいコンサートに会えますように。

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