『ジークアクス』ララァ登場で1997年の小説に再注目 富野由悠季が『密会』で描いたディストピア

※本稿は『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』のネタバレを含みます。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』の影響で小説『密会 アムロとララァ』を読み返してみて、少し驚いたことがある。この小説での地球連邦政府を中心とした宇宙植民の経緯は、テレビアニメ版の『機動戦士ガンダム』とは少々異なるのである。
『機動戦士ガンダム』の冒頭は、非常に有名なナレーションによって始まる。「人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに半世紀が過ぎていた」というこのナレーションから分かるように、『機動戦士ガンダム』で人類がスペースコロニーを建設して宇宙へと植民した背景には、地球上だけでは支えられない人口の爆発的増大があった。それに伴って地球環境も悪化し、多くの人々が宇宙に浮かぶコロニーへと移住。地球に住むことができるのは職務上の理由がある人々や特権階級が中心となっている。だが『機動戦士ガンダム』の物語の中では、宇宙植民に関するこれ以上の詳細はさほど語られることはなかった。
『密会』での宇宙植民の背景も、基本的には同じである。『密会』でも、21世紀までの間、人類は地球の資源を収奪し続けた。莫大な人々が高度で便利な生活を送るために物とエネルギーを大量消費し、きめ細かい輸送と通信のネットワークが形成された。たとえクリーンなエネルギーであっても、それを消費すること自体が地球の温暖化を推し進め、居住権の都市化は新種の病気を発生させる。それらの環境悪化が限界まで進んだ時、人々は有機体である地球もまた病にかかると悟ったのである。
「人がこれほどの物を消費していいのか、それほどの価値が自分たちにあるのか」と自問した時、現代資本主義は「宇宙には無限の消費空間がある」という新発見をする。「宇宙ならば無限のリソースを人類のために使うことができる」という極めて経済的な理由から人類は宇宙開発に邁進し、地球連邦政府を組織し、スペースコロニーと宇宙移民のための交通システムを構築し、無限の消費活動によって経済は活性化した。
一方で地球連邦政府は、大量の移民を宇宙へと送り込むための経済基盤を大衆から吸い上げた。地球とコロニーを往来することができる技術はあるが、航行の許諾権は連邦政府が独占しており、コロニーに住む移民たちを資本主義社会を維持するための消費集団と見做したのである。移民たちは地球からコロニーに辿り着くまでの費用を三世代にまたがるローンという形で支払わされており、これを完済するまでは地球への里帰りすら許可されない。労働に明け暮れる宇宙移民たちは、収入の半分以上を移民航行の旅費と居住権買取のためのローンに吸い上げられている。
また、移民を送り込むこと自体が連邦とそれにつらなる大企業の利益になることから、地球での一般市民の生活も苛烈になった。連邦政府は「地球での生活は過酷なものである」という宣伝を展開。実際にその宣伝に乗って、地球での市民への公共サービスの質はどんどん低下していったらしい。たとえば、カバスに移る前のララァが暮らしていた救護院も、15歳になれば強制的に子供達を追い出すシステムで回っていた。