『東京サラダボウル』奈緒×松田龍平主演で話題のドラマ 『クロサギ』の実力派漫画家・黒丸が描くマイノリティの物語

 黒丸のコミック『東京サラダボウル ―国際捜査事件簿―』が奈緒×松田龍平主演で実写ドラマ化され、話題になっている(NHK総合にて毎週火曜よる10時から放送中)。

 黒丸は、1999年、「週刊少年サンデー超」掲載の「飛べない鳥治します」でデビュー。2003年から「週刊ヤングサンデー」にて連載開始した『クロサギ』(原案・夏原武)でブレイクした実力派の漫画家だ。

 『東京サラダボウル』は、漫画アプリ「Palcy」にて、2021年から2024年にかけて連載された作品で、現在は全5巻の単行本にまとめられている。

 主人公は、東新宿署国際捜査係の刑事、鴻田麻里と、警視庁通訳センター所属の中国語通訳人、有木野了の2人だ。片や「国際捜査(コクサイ)のこぼれカス」と呼ばれている“はぐれ者”、片や他人にはあまり関心がなさそうな“元警察官”というこの異色のコンビが、東京の片隅で日々起きている外国人がらみの犯罪を捜査していく中で、さまざまな過酷な“現実”が浮き彫りになっていく。

※以下、ドラマ版ではなく、原作コミックのストーリーに準拠して話を進めます。また、大きなネタバレはありませんが、登場人物の1人、有木野了の過去について少し触れていますので、原作を未読の方はご注意ください。(筆者)

大切なのは、1人1人の“言葉”に耳を傾けること

 第1話の終盤――鴻田は有木野にこんなことをいう。「東新宿署って、いまめちゃ大変なんですよ! 新型感染症がちょっと落ち着いて、訪日&居住外国人がまた増えてるし、まさに人種のサラダボウル!」

 つまり鴻田は、東新宿という“1つの椀”の中で、さまざまな国から来た外国人たちと日本人が(溶け合うのではなく)犇めき合って生きている現状を彼女なりに表現しているのだろう。そしてその現状は、今後、東新宿だけでなく、東京全体にもひろがっていくことだろう。

 しかし、それは、ある意味では新たな形の犯罪(言葉や文化の違いから生じる犯罪)の増加を意味しており、当然、外国人への対応に慣れた警察官の育成が望まれるわけだが、その種の人材は、現時点ではあまりにも少ないのだという。

 また、本作における「外国人」とは、「マイノリティ」のメタファーでもある。あらためていうまでもなく、言葉の通じない国(日本)で懸命に生きている彼ら彼女らが頼れるものは限られている。そんな中、「コクサイのこぼれカス」である鴻田――「女性警察官」であり、また、自らのルールに従って生きている彼女も、古い体制である警察組織の中ではマイノリティだ――は、弱い立場にある人々の気持ちがわかる数少ない存在なのだ(余談だが、彼女が異国の“食”にこだわっているのも、「食べること」が「生きること」に直結しているからだろう)。

 有木野についてもそうだ。かつて上麻布警察署の巡査だった彼は実は性的マイノリティ(ゲイ)であり、過去にある事件の情報漏洩の疑いをかけられ、結果的に警察を辞めることになった(彼の恋人も警察官だったが、その事件の陰で死んでいる)。当然、そんな有木野の中には、警察への“あてつけ”や“怒り”が燻っていたわけだが、何ごとにも前向きな鴻田との出会いが、彼の心をしだいに変えていく。

 いずれにしても、人は1人では生きていくことはできない。誰もが「サラダボウル」のような場所で他者と暮らしていくほかないのだ。ならば、鴻田や有木野のように、マジョリティの“大きな声”には惑わされず、1人1人の“言葉”に耳を傾けて、他者を理解していくべきだろう。

 奈緒と松田龍平の好演が光るドラマ版に興味を持った方たちにも、ぜひ読んでほしい一作である。

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